なるほど! ことわざ経営学
雀百まで踊り忘れず
●独自資源:Asset のことわざ
●元の意味
雀が飛び跳ねるような仕草をする(踊る)癖は死ぬまで続く。子供の
頃のくせ・性格などは、一生続くものである。
人間の性格・本質は、大人になってもそうそう変わらない、ということをうまく表現したことわざです。
これは、個人についてだけでなく、組織についてもあてはまるのです。
●組織のDNA:人間同様、組織にもDNAがある
同じような規模の大企業でも、会社の雰囲気や出てくる製品などは全く違いますよね? 仮に同じような人が集まっても、ある「場」で、ある
「組織」にいると、組織によって相当違いが出ます。
創業理念をはじめとする組織が継承してきた「何か」によって、その組織の性質・雰囲気のようなものが、組織によって全く違うんです。大企業でもそうですから、人数が少ないがゆえに個性派集団となりやすい中小企業では、会社によって全く違います。
ここまでは、「組織によって色々と違いがある」と、一見当たり前のことを言っているにすぎません。従業員数十人規模の小さな会社であればそれは当たり前かもしれません。しかし、
トヨタ自動車:28万6千人
松下電器産業:33万4千人
NTT:19万9千人
ソニー:15万9千人
ヤマトホールディングス:15万3千人
(社員数は、全て連結。2007年1月会社四季報から)
http://job.toyokeizai.co.jp/rank/index.html
などの数十万人規模の会社であれば、人間の質としてはかなり平均化してよいはずです。多くの人が集まる会社(つまりは大企業)であるほど、いわゆる「大数の法則」*で、平均値に近づくはずです。
それでも、上記の会社は、業種業態の違いではなく、カラーの違い、組織の違いがかなり色濃く出ていると思います。私は実際NTTに5年弱勤務していましたが、やはり他社とは違う組織のカラーがありました。
非常に不思議なモノで、人に、その人固有のDNAがあるように、組織にもDNAがあるんです。
小売り・流通で言えば、吉野家の早い、うまい、安いには、どんな外食産業もかないません。売り物は牛丼とは限らなくなるかもしれませんが、それでもきっと、すさまじいスピードで提供されるでしょう。
セブンイレブンは、きっと「身近で便利な拠点」を、さらに便利にすべく、様々な価値を強化していくでしょう。宅急便、料金収納受付、ATMへとサービスを広げ、今はクリーニングを受ける店もあります。売り物は変われど、「身近で便利な拠点」というDNAは変わりません。
メーカーにおいても、トヨタの品質と効率に対する執念はすさまじいです。きっとこれからも、「カイゼン」の執念は衰えないでしょう。
ソニーは、革新的なモノ作り、小型化に血道を上げてきました。古くはトランジスタラジオ、ウォークマン、最近ではハンディカムや薄型ノートPCなど、先進的な小型商品で時代を引っ張ってきました。きっとこれからもそうであることでしょう。
任天堂は、花札、ゲームウォッチ、ファミコン、DS、と、媒体は変われど、きっとみんながあっと驚く、何か楽しい物を作り続けるでしょう。
任天堂が、WiiやDSで「楽しさ」を追求し、ソニーがPSPやPS3で「スピード」を追求したのは、これは良い悪いの問題というよりは、そのようなDNAを持つ、両社の宿命ではなかったかと思います。今は任天堂の圧勝ですが、その前(PS、PS2)ではソニーが圧勝しています。生物でも、恐竜が強かった時代があるように、その時代に適したDNAを持つモノが勝者となるわけです。
このような、組織の中核にある価値観がDNAであり、たとえ作るモノ、売るモノが変わっても、その精神は変わらないものです。
「雀百まで踊り忘れず」が見事に組織にもあてはまるのがご納得いただけるかと思います。
*大数の法則は、確率の話ですから前提は違います。ここで言いたいことは、3人の組織であれば、個性的な人を集めることはカンタンですが、15万人の組織ともなると、普通の人がその中に含まれることが多くなる、というこれも当たり前のことです。
●DNAの源、創業理念
DNAがアデニン、グアニン、シトシン、チミン、という4つの塩基の組み合わせで無限にあるように、組織のDNAも色々なものの組み合わせで、無限通りあります。
その中でも、特に重要な構成要素が、創業者の理念です。
ソニーの設立趣意書には、「会社設立ノ目的」として、
一、日本再建、文化向上ニ対スル技術面、生産面ヨリノ活発ナル活動
一、諸大学、研究所等ノ研究成果ノ内最モ国民生活ニ応用価値ヲ有ス
ル優秀ナルモノノ迅速ナル製品、商品化
などの文があります。
「文化の向上」
「国民生活に応用価値」
など、まさにウォークマンを生み出したソニーらしい言葉が並んでいます。「小型化」というのはありませんけど。
非常に興味深いので、ぜひソニーの設立趣意書を読んでみてください
ソニー設立趣意書
www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html
ストラテジー&タクティクスにももちろん経営理念はあるのですが、ここまで詳細に書いてなかったので、きっちり作ろうと思います。
ストラテジー&タクティクスの場合は、
実行無き戦略は空論。戦略無き実行は無力。戦略をカタチにし、会社の強みを輝かせるコンサルティング会社を設立
と言うのが、創業理念になっています。その中核が、強みを輝かせるツール、戦略BASiCSですので、現在はそれを広めることに注力しています。
このような創業の理念が、そのあとも守られていけば、組織のDNAが維持できるわけです。当社も、戦略BASiCSというツールは変わるかもしれませんが、理念の部分は変わりません。
●DNAと戦略BASiCS:Asset
当社のツール、戦略BASiCSで言えば、組織のDNAは、それそのものが「独自資源」でもあります。
さらに、DNAは、独自資源のさらに背後にあり、
「どのような独自資源を持つべきかを決めるもの」
と言った方がより正確でしょう。
「水道哲学」をDNAとしてもっていた松下は、大量のナショナル店という独自資源を構築しました。
しかし、ソニーはそこまではしませんでした。それよりも、
一、諸大学、研究所等ノ研究成果ノ内最モ国民生活ニ応用価値ヲ有ス
ル優秀ナルモノノ迅速ナル製品、商品化
という、「製品、商品化」のDNAがあったから、開発力、という独自資源の構築に注力したのでしょう。
戦略BASiCSで言えば、DNAは、Asset(独自資源)でもあり、かつ、Assetを定義するもの、という、本当に「根っこ」の部分にあたります。その結果、Strength(強み)もDNAに基づいたものになります。
戦場(Battlefield)は、変わるかもしれません。ソニーはソニー生命へ、セブンイレブンもセブン銀行へと展開し、それぞれに成功していると言われています。
ソニー生命は高品質な保険を、セブン銀行は昼間は手数料無料などの
利便性を売っているのは、そのDNAを無縁では無いでしょう。
戦場が変わっても、DNAは引き継がれることが多いですし、また、そうあるべきだと思います。
●雀が踊りを忘れてはいけない:DNAが決める「やるべきこと」と「やるべきでないこと」
DNAは、「やるべきこと」と「やってはいけないこと」を規定します。
例えば、2007年8月、吉野家は、180円ラーメンを売りにした 「びっくりラーメン」などを展開する、株式会社ラーメン一番本部という会社の支援を決めました。
http://www.yoshinoya-dc.com/news/pdf/070830_3.pdf
このニュースは、非常に納得できるものですよね。
吉野家が、もし「高級焼き肉チェーン」でも買収していたら、「?」となります。同じ牛肉とは言っても、スピード・低価格・高効率に執念を燃やす吉野家が、「高級焼き肉」店を経営するのは、組織のDNAと全く合いません。
高級焼き肉店に、吉野家から幹部が派遣されて、「この店のこの豪華な内装はムダだからやめて、もっとコストを下げろ」などと言ったらもうお話になりません。そういうことをしないのが吉野家の偉いところで、世の中にそんな話は世の中に事欠きません。
ノウハウがあるとか無いとかいう皮相な話ではなく、本質的にお互いの文化、DNAが「合わない」のです。
「低価格ラーメン」なら、スピード・低価格・高価格という吉野家の DNAと合います。ラーメンのノウハウなんかは無くても、そういう部分はまだ何とかなります。それより、組織との相性、価値観の一貫性の方が重要なんです。
●M&Aの「理想的補完関係の罠」
M&Aで問題になるのが、このDNAの問題です。
「体育会系」と「文化系」
「野武士系」と「お公家系」
「都会派」 と「自然派」
など、人の相性、組織の相性というのは、極めて大きな問題になります。
特に、M&Aにおける「理想的な補完関係」というのは、
・都心に強い会社 と 地方に強い会社
・法人に強い会社 と 個人に強い会社
など、弱みを補い合う関係にある会社、とされています。
しかし、その「理想的な補完関係」であるほど、
「違い」
が大きいのです。机上や、株主にとっては、「理想的な補完関係」かもしれませんが、「現場」では「違いすぎるがゆえの修羅場」となるのです。
文化が全く違う人たちが一緒になっていきなりうまくやる、なんていうのは、幻想です。会社が違うことに加え、人としてのタイプが全く違うからです。経験では、人種の違いよりも、このような「タイプの違い」の方が難しいと思われます。
上下関係がはっきりしていれば、つまり、買う方と買われる方が明確であれば、「いいからやれ」で決着がつくのでいいですが、日本人が好きな「対等」合併、となるともう大変ですね。
M&Aに限らずではありますが、このような目に見えない部分が重要なわけです。M&Aの可否・成否の予測などは、金融関係の仕事ではなく、心理学とか文化人類学の分野の仕事にように私には思えます。
●差別化軸とDNA
では、一体どのようなDNAがあるのでしょうか? もちろん、DNAは一人一人違います。組織のDNAの場合も同じで組織の分だけあります。
ただ、それでも生物がある程度分類できるように、DNAもある程度分類することができます。
それが、例の3つの差別化軸、
1)手軽軸:早く安く便利に
2)商品軸:高品質・新技術の商品・サービス
3)密着軸:お客様のかゆいところに手が届く商品・サービス
です。
手軽軸の差別化戦略をとる会社のDNAは、高効率を旨とし、コスト削減・低価格に血道を上げることが多いです。吉野家などもそうだと言えるでしょう。
商品軸の戦略をとる会社のDNAは、新商品開発に執念を燃やすことが多いです。ソニーが典型ですね。
密着軸の戦略をとる会社のDNAは、お客様ニーズに応えることにフォーカスします。シニアターゲットのニーズをくみ取る、京王百貨店などがそうでしょう。
同じ差別化軸であれば、必然的に文化が似てきます。DNAもある程度共通するでしょう。逆に、商品軸の会社と手軽軸の会社とでは、相当異なります。
業種業態もそうですが、差別化軸を超えたM&A・経営統合は非常に難しいものになります。
●雀が踊りを忘れると:創業理念・DNAを忘れてしまうと……
売る「モノ」は、時代によって変えても構いません。むしろ、技術の変化などにより、必然的に変わるでしょう。
ソニーだって売り物は全く変わっていますが、それは当たり前のことです。
しかし、DNAが変わると、歯車が狂ってきます。
私は、ダイエーが苦境に陥ったのは、そのあたりに端を発しているのではないかと見ています。
当初のダイエーのDNAは、「主婦の味方」でした。メーカー支配の流通構造に異を唱え、価格破壊で消費者の生活水準を上げる、ということだと私は認識しています。
しかし、あるときからDNAが変質してきました。「主婦の味方」と言うDNAから、「新しい流通を導入する」というDNAに変わったように見えます。流通革命は、「主婦の味方」というDNAを生かす手段だったのが、いつの間にか「流通革命」という手段が、目的となってしまったようです。
大ロット商品を売るハイパーマート業態などは、米国のように、人間が入れるような冷蔵庫・冷凍庫が家庭にあるからこそ意味があるわけです。「主婦の味方」というDNAが健在であれば、そのような方には行かなかったのではないでしょうか?
雀は何もしなくても百歳まで踊りを忘れないかもしれませんが、企業組織は、当初持っていた燃える想い、熱いDNAを失ってしまうものなのですね。何もしなくてもいいわけではないのです。
雀が百まで踊りを忘れないためには、まさに「初心忘るべからず」が重要なわけです。
このようなことをことわざで言い表してしまう、やっぱり昔の人は偉かったのですね……
最近、不祥事でブランドが一夜にして全てを失ってしまうことがよく起きています。その一因は、このような「DNAの喪失」にもあると思います。
不祥事は、DNAが生き続けていても起きるのですが、DNAが生きていれば、その対応方法が違ってきます。
何か起きたときに、
「これはこの商品が目指していた想いとは全く違います。申し訳ございませんでした」
というのと、
「賞味期限なんて言っても大したことないじゃん。誰も死ななかったわけだし」
というのでは、お客様の受ける印象が全く違います。
さて、あなたの会社のDNAはどんなものでしょうか?
そして、どのようなDNAを次世代に引き継ごうとしていますか?
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