マーケティングのアタマの使い方
〜固いワクと柔らかいアタマ〜
ここでは、マーケティングにおけるアタマの使い方について語ります。マーケティングに限らないとは思いますが、ここではマーケティングに絞ってお話したいと思います。
●マーケティングのアタマの使い方:一貫性と具体性
結論から言うと、マーケティングにおけるアタマの使いかたは、「一貫性」と「具体性」の両立です。
「一貫性」とは、論理的、いわば左脳的なアタマの使い方です。
「具体性」とは、具体的、いわば右脳的なアタマの使い方です。
なぜそうなるかと言うと、マーケティングとは、言わば「お客様に何かを買っていただく」ための方策の集合体だからです。お客様が何かを買う、ということは、意思決定、つまり、アタマを使って何かを決める、ということです。
その際に、右脳と左脳のどちらをより多く使うか、の違いはありますが、論理的な意思決定(これを買う意味はあるのか)と情緒的・具体的な意思決定(好きかキライか)の両方を伴うからです。
お客様がそういうアタマの使い方をするので、その両方に訴えかけるために、マーケターも「一貫性」「具体性」が必要になります。
●「理論」はアタマを固くするか?
「理論」を知ると、アタマの使い方が固くなりそうだ、という風に思われているようですが、そんなことは無いと私は思っています。
しかし、世に出て成功している商品は、必ずその背後に理論的な成功要因があります。
例えば、
・顧客ターゲットのニーズにぴったり合った製品がそれまで無かった
・競合する商品が弱かった
などです。
逆に、失敗する場合も
・競合商品と差別化できていなかった
・選んだチャネルが顧客ターゲットと合ってなかった
などですね。
成功した場合も失敗した場合も、(後付にはなるかもしれませんが)理論で説明できるものです。特に、顧客ニーズ、顧客ターゲットなどとの一貫性や、対競合との一貫性がカギになります。
実際にやった方が、明確にこのような戦略的一貫性を意識していたかどうかは別にして、たまたま成功した場合でも、後から考えると必ず理論的な一貫性が保たれているものです。
「必ず」とまで言い切れる理由は単純で、お客様は買う理由なくして買わないからです。買う理由を明確に意識しているかどうかは別ですし、お客様の意思決定が論理的とは全く限りません。気分で買う場合もあります。ただ、その場合でも、「お客様の気分」と、商品やチャネルには一貫性があるはずです。お客様が買う「気分」のときにそこに商品がなければ売れるはずがありません。
ですから、どちらにしても理論は必要です。
結論から言うと、理論は必要で、理論の使い方に、「固い」使い方と「柔らかい」使い方があるだけです。
例えば、戦略BASiCSは非常に強固な戦略理論です。戦略BASiCSの最初に来る要素が、「戦場・競合」です。どのような市場・戦場で戦っているか、という戦場の定義ですね。
どんな商品も、何らかの「戦場」で戦っています。
例えば、飲料の新商品を考えるとしましょう。
その際に、戦場を「飲料」と規定してしまうのは、「固い」使い方です。そうすると、ペットボトルや缶の飲料など、既存の飲料のワクから抜けられません。「味は……」「甘味料は……」「炭酸は……」という発想になるでしょう。
しかし、戦場を例えば「午後のリフレッシュ」としてみましょう。すると、「リフレッシュにはアロマで……じゃあ香りをつけてみよう」などという発想になるかもしれません。伊藤園のヒット商品「天然美香ジャスミン茶」(ペットボトル)などはそういう発想で出てきたのではないかと思います。非常に香りの良い商品です。
さらに、戦場を例えば「子供と楽しく遊ぶ」としてみると、2種類混ぜると色が変わる、とか、ペットボトルに粉末を添付しておいて、粉末を入れると味が変わる、などの発想も出てきます。
上記の例で売れるかどうかはともかく、「戦場を定義する」という理論に問題があるのではなく、「戦場の定義の仕方」というアタマの使い方に問題がある、ということがおわかりいただけるかと思います。
つまり、理論を知るとアタマが固くなるかどうかは、道具の使い方の問題であり、道具の問題では無い、ということです。
●「理論」を知っていた方が、アタマを柔らかく使える
むしろ、このような理論を知っていた方が、発想は広がり、アタマは柔らかく使えます。2つ理由があります。
1)触媒になる
ゼロから発想しようとすると、難しいものです。しかし、マーケティング理論に基づき、
・お客様の価値(ベネフィット)は何だろう?
・その価値を重視する顧客は誰だろう?
・その際の競合商品は何だろう?
と考えると、発想のネタになります。
2)「アイディアを出すこと」に集中できる
上記のようなしっかりとした理論に基づいて考えれば、「何を考えるべきか」ではなく、「どう考えるか」に集中できます。
つまり、
・お客様の価値(ベネフィット)は何だろう?
・その価値を重視する顧客は誰だろう?
・その際の競合商品は何だろう?
ということを考えればいい、ということがわかっていれば、それに集中できるのです。
固いワク と 柔らかいアタマ
●固いワク と 柔らかいアタマ
ですから、まずは必要なのは、モレ・ダブりがなく、それを考えれば十分、という強固な理論体系を知ることです。まずは「固いワク」が必要なのです。
例えば、S&Tが提唱する「戦略BASiCS」は強固な論理体系、つまり「固いワク」です。戦略を考えるにあたっては、
1)戦場・競合
2)独自資源
3)強み・差別化
4)顧客
5)メッセージ
の5つ「だけ」を考えれば、まずは十分です。ですから、戦略を考えるにあたっては、「何を考えればいいのか」は飛ばして、「この5つをどう考えればいいのか」という本質の部分に集中できます。
そして、この5つの戦略要を柔らかく考えていけばよいのです。その例は、さきほどの飲料の新商品の考え方でご説明したとおりです。
固いワク:理論的に体系化された、しっかりした理論体系
柔らかいアタマ:そのワクの中身をどのような革新的・具体的なアイディアで埋めるか
という、
「固いワクを柔らかく使う」
ことが大切です。
そうすると、そのワクが埋まったときには、そのアイディアは理論的体系を背後に持っていますから、既に強固なモノになっているのです。場当たり的に考えると、後で体系化するのは大変ですから、この方が効率もよいです。
固いワクを考えるときは、場当たり的なアタマの使い方をしても構いません。脳に投げかける質問が論理的に強固な理論体系を持っていればよいのです。先ほどの戦略を考える際にアタマに投げかける質問は、
・戦場・競合はどこか?
・自社の独自資源は何か?
・その独自資源をどう強み・差別化に活かすか?
・その強みを評価する顧客は誰か?
・それを顧客にどう伝えるか?
という戦略BASiCSに基づく質問です。
脳に投げかける質問は論理的に行い、それに対する発想は柔軟に柔らかく、ということです。
●固いワクを知ろう!
ですから、強固な理論体系を知ることが重要になります。理想は自分で考えることですが、最初からそれを目指すのは、相当な経験者でもまず無理です。
まずは既に体系化・理論化された理論を知りましょう。
その際には、「理論のための理論」ではなく、「実際に使うための理論」を使いましょう。残念ながら「理論のための理論」というのは結構あります。例えばSWOT分析などは極めて有名ですが、戦略立案においては残念ながら使いにくいツールです。それについてはこちらのページで明らかにしている通りです。
「実際に使うための理論」は、現場で検証されているものが良いです。これも多くありますが、S&Tが提唱している理論体系には、以下のようなものがあります。
1)戦略BASiCS
上記の説明の通りです。
2)マインドフロー
お客様がファンになるまでのプロセスを時間軸でモレなく分解した7つの関門
・認知
・興味
・行動
・比較
・購買
・利用
・愛情
3)売上5原則
売上を5つの要素に分解した
・新規顧客の獲得
・既存顧客の維持
・購買頻度の向上
・購買点数の増加
・商品単価の向上
4)マーケティングの理論体系
・ベネフィット:お客様にとっての価値
・ターゲット:その価値を重視する顧客
・強み・差別化:競合により高い価値を提供
・4P:価値をお客様に届ける商品、広告、流通とその対価としての価格
などです。
これらは体系化されており、かつ、実戦現場でも使えることが検証されている理論体系です。まずはこれらを「固いワク」として使いましょう。そうすると、そのワクに基づいて発想したアイディはすでに体系化されたものになっています。
●固いワクの柔らかい使い方を知ろう!
では、そうは言っても実際にどうすればいいのでしょうか? 「強固なワク」は説明しやすいのですが、そのワクの「柔らかい使い方」を説明するのは大変難しいのです。
そこで、この「ワク」を実際にどう使うかを物語形式で書いた本が、S&T代表の佐藤義典の物語著作、3冊です。
この物語に共通するのが、しっかりとした理論をそのバックボーンにもっていることです。強固な理論体系を背後に持ちながら、それを具体的にどのように落とし込んでいくか、を物語形式で「体験」できるようにしているのです。
強固なワクを柔らかく使っているのが、この3冊の主人公たちなのです。
マーケティング入門編:「ドリルを売るには穴を売れ」
この本では、
・ベネフィット
・ターゲット
・強み・差別化
・4P
という、マーケティングの基本理論を枠組みを使いながら、いかに魅力があってイキイキとしたマーケティングの企画を立てるか、というマーケティングの初めて入門です。
戦略入門編:「白いネコは何をくれた?」
この本では、S&Tの中核理論、戦略BASiCSの使い方を解説しています。
戦略BASiCSは、
・戦場・競合
・独自資源
・強み・差別化
・顧客
・メッセージ
という5つの要素で戦略を統合的に考える、統合戦略フレームワーク、まさに戦略についての「強固なワク」です。
それを
・クライアントの戦略立案
・自社の戦略立案
・自分のキャリアの戦略立案
と、まさに色々な使い方で「柔らかく」使う方法を物語で解説しています。
さらに、この本の物語では、クライアントの戦略、自社の戦略、自分のキャリア戦略が絡み合い……と、戦略立案プロセスという「強固なワク」の使い方がいかに柔らかく、イキイキとしたプロセスであるかがわかると思います。
戦略実施編:「売れる会社のすごい仕組み」
この本では、以上の2冊をさらに発展させ、
・戦略BASiCS
・マインドフロー
・売上5原則
・プロダクトフロー
という、4つの「強固なワク」をいかに相互に有機的に連動させ、柔らかく使っていくか、という複雑な課題に主人公のヒロイン、売多真子が挑みます。
そして、上記の「固いワクの柔らかい使い方」を徹底的に解説しています。物語形式にした理由はその点にあり、思考・発想のプロセスを体感していただきたかったのです。理論そのものは理論的に説明できますが、理論の使い方は、物語を使った説明の方がわかりやすいのです。
固いワクと柔らかいアタマの使い方:実戦マーケティング思考
本書は、物語ではありません。
「マーケティング思考」というタイトル通り、いかに「一貫性」と「具体性」の両方を兼ね備えた思考ができるか、という本。
理論の説明をする本は世に多くあります。
「こうやって売れた」という体験に基づいた本も世に多くあります。
しかし、この両方をうまくつなげた、「固いワクを柔らかく使う」という方法論の体系は、ほとんどみたことがありません。
柔らかいアタマの使い方とは、「イメージ発想」です。
・お客様の姿形をイメージする
・お客様の言葉を話す
・お客様の利用場面をイメージする
などの、アタマの柔らかい使い方がどうすればできるようになるか、を詳細に解説している本です。
●アタマの使い方を身につけるS&Tの研修
このようなアタマの使い方を解説する、というのは、なかなか文章では難しい場合もあります。
空手の通信教育は難しいですよね? それよりは空手の師範に1時間でも直接習った方がわかりやすいです。
同様に、このように固いワクを柔らかく使うことに優れたアドバイザーに直接習う方が効果的なことも多くあります。
S&Tでは、上記の「固いワク」を自らの理論として構築し、その使い方に一番優れた講師(S&Tの代表)が直接教えたりアドバイスを行うコンサルティングや研修を提供しています。
S&Tの研修の詳細は、こちらの研修のページからどうぞ。
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