経営戦略のフレームワーク解説
マイケル・ポーター氏の5Forces(ファイブ・フォース)
●マイケル・ポーター氏の5 Forces
ハーバードMBAの教授、マイケル・ポーター氏が提唱した極めて有名な戦略フレームワークが5
Forcesです。 複数形ですので「フォースィーズ」と読むはずですが、日本語ではファイブ・フォースと言われるようです。
●5 Forces とは?
ざっくりまとめると、
・新規参入業者
・代替品(間接競合)
・供給業者
・買い手(顧客)
・ 競争業者(直接競合)
の「五つの要因が結集して、業界の究極的な収益率−すなわち、長期的な投資収益率を決める」(マイケル・ポーター著 競争の戦略 P.17)という理論です。
そして、「競争戦略の目標は、業界の競争要因からうまく身を守り、自社に有利なようにその要因を動かせる位置を業界内に見つけることにある」と(同 P.18)と結論づけます。
このように、ある業界における自社の「位置」をうまく見つけ、そこに位置する(ポジションする)ことが成功のカギだというため、「ポジショニングセオリー、ポジショニング論」と呼ばれたりします(マーケティングでいう「ポジショニング」とは全く違う意味です)。
●5 Forcesの特徴:「産業」を前提とした分析手法
マイケル・ポーター氏は、産業分析・産業構造の専門家です。そして、この理論を詳細に記した名著「競争の戦略」(英書名
Competitive Strategy)は、1980年に出版されました。今から30年近く前のことです。
30年前の1970年代は、業界の構造が現在に比べて固定的でした。例えば、印刷会社は印刷会社と競合していたのです。ですから、「産業構造」「業界分析」などが意味をもっており、固定的な産業構造を前提とした5
Forces分析にも意味があったのです。
しかし、今や業界に垣根はありません。印刷会社は、PDFファイルと競合することもありえます。また、夏のボーナスを巡っては大型TVと海外旅行が競合します。「業種」で競争相手を考えることの意味が、30年前とは大幅に異なっているのです。
その背景にあるのは、顧客の購買行動の多様化、選択肢の爆発的な増加です。顧客の購買行動が多様化し、「海外旅行」の競合が「海外旅行」だけとは全く限らないのです。
そうなると、固定的な産業構造を前提とした5 Forces理論を、産業・業種が流動的になった現代において使うことの危うさがおわかりいただけると思います。
5 Forcesは、「業種の存在」を前提としており、「どのような業種・業態・競合構造があるか」は5
Forcesは教えてくれないのです。
これは、業種業態の垣根が曖昧な現在、致命的と言って良い弱点であり、5 Forcesはもはや「現代に合わない理論」なのです。
●5 Forcesの戦略立案時の使いにくさ
5 Forcesの弱点は、先に述べた業界構造の流動化だけではありません。
実務家の立場で言えば、5 Forcesが教えてくれるのは、「この業種が儲かる」ということです。もともと産業分析に起源を持つ理論で、個別の企業の戦略策定のために作られたツールではないと考えています。
5 Forcesの本質とは、「儲かる業種にいれば儲かる」ということです。競争の戦略に書かれているように、「競争戦略の目標は、業界の競争要因からうまく身を守り、自社に有利なようにその要因を動かせる位置を業界内に見つけること」という、「位置」(ポジション)が競争のカギだというのです。
つまり、5 Forcesは、産業の分析には優れていても、個別の会社がどういう戦略を作るべきかについては、弱いツールなのです。
儲かる業種にいれば儲かる、というのは直感に反する議論ですし、事実同業種にいる同じような規模の会社でも、利益が全く違うということはよくあることです。
5 Forcesを金科玉条のようにありがたがる論調・風潮もありますが、そのような理論をアタマから信じてそのまま使う、という方法にはストラテジー&タクティクスは強い疑問を呈します。5
Forcesが全くダメだとは言わないまでも、相当な修正を必要とします。
ですから、5 Forcesを金科玉条のように振りかざす理論家やコンサルタントには注意してください。全員がそうではありませんが、このような5
Forcesの弱点に気づかずに、外来の理論を有り難がって使っている可能性があるからです。 自分の頭で考えれば、あるいは5
Forcesを実際に真剣に使ってみれば、このような5 Forcesの弱点には気づくはずです。ゆめゆめ5
Forces分析をするコンサルティングに高いお金を払うことのないように注意されることをおすすめします。
●経営戦略論からのポーター氏批判
5 Forcesのこのような危うさは、経営戦略理論の視点からも反論が出てきました。「同じ業種にいても、会社の強さが違えば利益率・額が違う」という至極真っ当な批判が経営戦略論でも出て来ることになります。それがバーニー教授を旗頭とする、RBV(Resource
Based View)、いわゆる「資源論」です。会社がもつ独自な資源によって儲かる、儲からないが決まる、という理論で、これもある意味当たり前のことです。
このように、マイケル・ポーター氏とジェイ・バーニー氏の高尚な戦略理論同士のぶつかり合いも、その本質は、
・「儲かる位置・業種にいれば儲かる」 というポーター氏の主張
と
・「会社の独自資源が強ければ儲かる」というバーニー氏の主張
という、極めて当たり前のこと同士のケンカ、ということになるのです。
●5 Forcesを現代に合わせて修正
何を偉そうに、と思われるかもしれませんが、ポーター氏を批判しているわけでもなく、5
Forcesを非難したいわけでもありません。30年近く前に発表された理論を未だにありがたがり、前提が全く変わった現代にそのままあてはめて使おう、ということが無理なのです。
そもそも、5 Forcesが言う、「買い手・競合を考える」などは当たり前のことです。
5 Forcesの2つの弱点
1)産業構造が流動的になり、そのままあてはまらない
2)個々の企業の戦略策定には使いにくい
という点を修正する戦略フレームワークが必要です。
まず、1)の産業構造が流動的になった、という点を修正しましょう。これは、実はあっけなく解決します。
「顧客が競合だと思うものが競合」だと捉えれば良いのです。顧客が薄型液晶TVの購入を考える際に、プラズマTVと比較検討するのであれば、それが「TV」戦場なのです。
広告用の印刷物を発注する企業の広告担当者が、チラシ(印刷物)と、電子メール販促を比較検討するのなら、それが「販促物」戦場となります。
顧客のアタマの中に合わせて、業種・業態を再定義すればよいのです。
これは、実は当たり前のことであり、今に始まったことではありません。例えば、駅前にある吉野家は、隣にある立ち食いそば屋と昔から競合していました。「牛丼屋」と「ソバ屋」は業種は違います。しかし、「駅前で早く食事をすませる」という「業種」(戦場)で昔から競合しているのです。それは、顧客がそのように考えるからです。
逆に言えば、5 Forcesのような理論は、ある特殊な業界において通用した分析手法であり、それが使えない業種・業界が大幅に増えた、ということです。
次に、2)の個々の企業の戦略策定に使えるフレームワークにする必要があります。これも実は簡単に解決します。ポーター氏がいうところの「位置」以外の要素、例えば
自社の強み、狙う顧客、などの要素を同時に考えればよいのです。
このように、5 Forcesの弱点をカバーし、現代でも使える普遍的かつ個々の企業の戦略立案ができるように使いやすくした戦略立案フレームワークが、ストラテジー&タクティクスと佐藤義典が提唱する「戦略BASiCS」なのです。
戦略BASiCSは、このページで若干解説されています。また、佐藤義典著の「図解実戦マーケティング戦略」 と 「経営戦略立案シナリオ」で、詳しく紹介されています。
特に、「経営戦略立案シナリオは、戦略BASiCSを300ページにわたって解説した、経営戦略立案の実戦的なガイドブックです。
また、戦略BASiCSを体得するための社員研修や、戦略BASiCSの開発者が直接コンサルティングを行うコンサルティングもストラテジー&タクティクスは提供しております。
●5 Forces 関連ページ
戦略BASiCSの紹介
3Cの使い方とその限界:5
Forcesと同じく有名な3Cの解説
SWOT分析の使い方:有名なSWOT分析の正しい使い方
書籍:図解実戦マーケティング戦略
書籍:経営戦略立案シナリオ:戦略BASiCSが300ページ
●5 Forces 関連サイト
NECのビジネスサイトWisdomで戦略BASiCSを詳細に解説
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